浜辺で二人の若者が海を眺める表紙は、本書にも掲載のシャムキャッツのアルバムジャケットを手掛けたイラストレーターのサヌキナオヤさんによるもので、最近のピクチャード・リゾート等のジャケットにも通じる飾らない魅力があります。
岡村詩野さんの監修による本書『ギターポップ・ディフィニティヴ 1955 - 2015』では半世紀以上に渡る音楽からオールカラーで約500枚のディスクが紹介されています。岡村さんの前書きによれば、ネオアコという言い回しは最早失笑を買うほどに古臭くなっているようで、現在のギターポップで通用する音楽性に纏わるエッセンスを振り返るのに旧来以上にこれらの発掘や理解も深まってきたように思えます。
執筆陣には監修の岡村さん以外にも解説を複数人が担当していますが、詳しいデータ的な内容のものから単なる思い出話のものまで様々です。あくまでオリジナル盤のジャケットをアートワーク的な観点から優先的に掲載していますが、中には内容を重視して後の編集盤CDだったり、一部は7, 12インチの盤面やスリーヴだったり、或いは紹介されたジャンルに連動して随分後年に製作されたアルバムが年代を無視して一緒に掲載されていたりします。解説部分の内容を除けば、アーティストとそのタイトルにレーベル名と製作年のみのデータというシンプルな構成です。
ギターポップのルーツを1955年に設定して、ジャック・コスタンゾ&ヒズ・アフロ・キューバン・バンドからこのディスクガイドの旅は始まります。ジャンル的に横断していくのはアフロキューバン～ラテンジャズ、米ボーカル物、ボサノヴァ、カントリー～ロカビリー、ガールグループ、フレンチポップ、英女性ボーカル物、英ビート物、バブルガムポップ、フォーク、サイケデリック、ソフトロック、SSW、伯ソフトロック、ソウル、ハワイアンAOR、パワーポップ、ファンカラティーナ、C86、エスニックポップ、マッドチェスター、シンセポップ…といったような流れで、これらの前半に眼を惹いたのはよく見かけるラインナップ以外の、セルジュ・ゲンズブールやジョニー・キャッシュ、エルヴィス・プレスリー、リー・ヘイゼルウッド、カエターノ・ヴェローゾ、グレイトフル・デッド、グラム・パーソンズ、フレイミン・グルーヴィーズ、クリーナーズ・フロム・ヴィーナス、Ｒ・スティーヴィー・ムーアあたりにも頁を割いていて、2015年の感覚というものを重視した並びとなっています。
古株の洋楽ファンにはオールディーズ定番のシュプリームスやリトル・エヴァ、フィル・スペクターのクリスマス・アルバム等が選ばれていたり更にはハービー・ハンコックの『処女航海』や大瀧詠一のファースト、日本のグループサウンズ、ヤプーズ、ルースターズ、フィッシュマンズまで取り込む幅広さのある一方で、サイモン&ガーファンクルやヤングブラッズ、トッド・ラングレン、MBVといった従来であれば確実に選ばれるアーティストが落選していて、全体を俯瞰すると枚数制限による関係で70年代のロック～AOR周辺の音楽やそれ以降のギターポップ以外のジャンルからの音楽が手薄に感じられる面はあります。
近年の作品ではまだセレクトが定着していないためにむしろ2000年代以降のアルバムの方が興味深く見ることができます。普段ギターポップと呼べる音楽を聴かないオールドファンにもジェームス・ブラックショウやジェシカ・プラットの名作アルバムが選ばれているので大丈夫ですし、バンド「森は生きている」の増村和彦さんが執筆に名を連ねているので若い世代にもアピールするアルバムが沢山あるはずです。
旧作であっても近年の再発CDで手軽に揃えられるタイトルも多く、執筆陣の慧眼からロバート・ミッチャムのファーストやディック・ウォルター率いるアカデミー、イサカの自主製作による名盤、他にもミッシェル・コロンビエ、ジョン・マーティン、トニー・タムのようにもっと聴かれるべきアルバムも多数入っています。本書を片手にその音楽の宝の山を繙いてみてはいかがでしょうか。
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