考古学、古人類学、霊長類学、発達心理学、脳神経科学、民族音楽学などの異なる学問分野で得られた証拠を集約し、音楽の起源と進化、言語の起源と進化に迫る壮大な仮説を打ち立て音楽と言語には共通の先駆体があり、ホモ・サピエンスはそこから音楽と言語を分離させ進化したが、ネアンデルタールでは一体化したまま進化したという〝歌うネアンデルタール〟仮説が大変興味深いと思いました。
ホモ・サピエンスの進化がコミュニケーションを求め音楽を重要視しているのだという点にも共感しました。
私の長男は、言葉を話す前から歌を一度聴いただけで全曲歌える音楽サヴァンだったのですが、言語能力が弱いため、私はずっと音楽と言語の脳機能は、もともと同じ機能を使うものと思っていました。それゆえ、ミズンのいう先駆体というのが、ホモ・サピエンスにもあるのではないかと思います。
それがあると障害になるのかということについてミズンは何も述べていないので、発達障害者から人類の脳の進化をさぐる考察についても知りたいと思いました。
人類の技術進歩は音楽を大衆化し利用しやすくするとともに音楽エリートを生み出したといい、だれもが気負うことなく音楽を通じてコミュニケーションできれば世界はもっとよい場所になると考え、本書の最後では、読者に気楽に楽しむ音楽をすすめています。
私は、音楽エリート、言語エリートがそれぞれ格差を生み出すことも考えられると思いました。
人類進化史における音楽と言語について考えさせられ、だからこそさらに音楽と言語の探求を深めたいと思いました。
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歌うネアンデルタール: 音楽と言語から見るヒトの進化 単行本 – 2006/6/1
- 本の長さ492ページ
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2006/6/1
- ISBN-104152087390
- ISBN-13978-4152087393
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登録情報
- 出版社 : 早川書房 (2006/6/1)
- 発売日 : 2006/6/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 492ページ
- ISBN-10 : 4152087390
- ISBN-13 : 978-4152087393
- Amazon 売れ筋ランキング: - 502,439位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 377位考古学 (本)
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2017年7月14日に日本でレビュー済み
2007年4月14日に日本でレビュー済み
言語の起源は、この分野の多くの人が興味を持っている気がするのですが、
この本では、言語に加えて音楽の起源を探究しようと試みています。
ネアンデルタールは、Hmmmmm(Holistic:全体的 multi-modal:多様式的 manipulative:操作的 musical:音楽的 mimetic:ミメシス的)という、
言語と音楽の両方の前駆体的なコミュニケーション手段を持っていた、と主張しています。
「全体的」というのは、一声で一つの意味をなして単語に分かれていないというような意味、
「多様式的」というのは、犬のほえ声がワンパターン(←駄洒落すみません)であるのより、もっと多様なパターンの発声、というような意味、
「操作的」というのは、聴き手を操作するというような意味(あっちいけ!とか)、
「音楽的」というのは、音程の上下やリズムがあって、また、ある音節が特定の事物を意味してはいない、というような意味、
「ミメシス的」というのは、模倣的というような意味、
のようです。
Hmmmmmを前駆として、現代人は新しく、事物を具体的に指し示す単語を持ち、単語の組合せルール(統語?)を持つ、言語を獲得したと。
言語は効率的な情報伝達手段として発達していったと。
一方で、音楽の中には今もHmmmmmのなごりがあって、感情の表出やIDL(Infant Directed Language)の際に有用な役割を果たしていると。
論証のかなり困難な、というか不可能な、音楽の起源に挑戦するということで、
根拠として集めた事例も、脳科学(失語や失音楽といった脳損傷の事例や、神経科学 etc)、
ヒトの行動学(育児の話、個人的な音楽体験etc)、現生霊長類の行動(チンパンジー、ベルベットモンキーetc)、
化石人類の骨格、人口遺物、など非常に多岐にわたっていて、
読みごたえがあります。(参考文献の数が約500!)
この本では、言語に加えて音楽の起源を探究しようと試みています。
ネアンデルタールは、Hmmmmm(Holistic:全体的 multi-modal:多様式的 manipulative:操作的 musical:音楽的 mimetic:ミメシス的)という、
言語と音楽の両方の前駆体的なコミュニケーション手段を持っていた、と主張しています。
「全体的」というのは、一声で一つの意味をなして単語に分かれていないというような意味、
「多様式的」というのは、犬のほえ声がワンパターン(←駄洒落すみません)であるのより、もっと多様なパターンの発声、というような意味、
「操作的」というのは、聴き手を操作するというような意味(あっちいけ!とか)、
「音楽的」というのは、音程の上下やリズムがあって、また、ある音節が特定の事物を意味してはいない、というような意味、
「ミメシス的」というのは、模倣的というような意味、
のようです。
Hmmmmmを前駆として、現代人は新しく、事物を具体的に指し示す単語を持ち、単語の組合せルール(統語?)を持つ、言語を獲得したと。
言語は効率的な情報伝達手段として発達していったと。
一方で、音楽の中には今もHmmmmmのなごりがあって、感情の表出やIDL(Infant Directed Language)の際に有用な役割を果たしていると。
論証のかなり困難な、というか不可能な、音楽の起源に挑戦するということで、
根拠として集めた事例も、脳科学(失語や失音楽といった脳損傷の事例や、神経科学 etc)、
ヒトの行動学(育児の話、個人的な音楽体験etc)、現生霊長類の行動(チンパンジー、ベルベットモンキーetc)、
化石人類の骨格、人口遺物、など非常に多岐にわたっていて、
読みごたえがあります。(参考文献の数が約500!)
2006年12月4日に日本でレビュー済み
鬱病患者の療法や環境音楽のように現代でも多用されている音楽。しかし進化心理学ではヒトの認知能力のなかでなぜか言語などと比べると顧みられることがなかった、と著者は本書の動機を説明しています。そこで音楽をヒトが身に付けてゆく過程を考察してゆくわけですが、脳障害の症例にはじまり、乳児の音楽・言語の摂取の様子、霊長類学そして著者本来のフィールドである化石人類の研究等々、最新知見により思いつきに拠らず一歩一歩論を進めていきます。章立てが細かく全体に読みやすい工夫をしているところが理解を助けます。
ヒトのコミュニケーションにおける感情の重要性とそれに起因するコミュニケーション手段の多様性(身振り、音楽、言語の中の擬音etc.)に改めて着目したところが本書のキモといえるのではないでしょうか。狩猟、育児、食事、捕食動物からの防衛、他集団との交渉etc.先行人類が直面した生存上重要な局面でまず必要だったことは互いの感情を通い合わせることだったのではないか。そしてその必要に応じてまず発達した認知能力が感情に直接作用する音楽だったのでは、という著者の仮説に説得力を感じます。
ヒトの進化について論じた第2部以降の各章冒頭で、テーマシーンに相応しい楽曲(eg.40万年前の先行人類が木で休息するシーンでM.ディヴィスの「カインド・オブ・ブルー」)を掲げているところなど、思わずニヤリとさせられますね。
ヒトのコミュニケーションにおける感情の重要性とそれに起因するコミュニケーション手段の多様性(身振り、音楽、言語の中の擬音etc.)に改めて着目したところが本書のキモといえるのではないでしょうか。狩猟、育児、食事、捕食動物からの防衛、他集団との交渉etc.先行人類が直面した生存上重要な局面でまず必要だったことは互いの感情を通い合わせることだったのではないか。そしてその必要に応じてまず発達した認知能力が感情に直接作用する音楽だったのでは、という著者の仮説に説得力を感じます。
ヒトの進化について論じた第2部以降の各章冒頭で、テーマシーンに相応しい楽曲(eg.40万年前の先行人類が木で休息するシーンでM.ディヴィスの「カインド・オブ・ブルー」)を掲げているところなど、思わずニヤリとさせられますね。
2006年6月28日に日本でレビュー済み
大当たり!でした。
スティーヴン・ピンカーの「音楽なんてことばのおまけでしょ」という説に対して、
「ならなんで進化を遂げた現代人は歌ったり踊ったりして楽しんでるんだい?」と真っ向から対決。
前半では、言語と音楽の脳内での処理機構は別々に発達した可能性を示唆。
失語症や失音楽症といった臨床例を挙げ、自らの説を裏付けしていく。
後半では、いよいよ「歌うネアンデルタール」の世界に。
発掘された遺跡や骨から、アウストラロピテクスのルーシーや
ホモエレクトスたちがどのような会話をしていたか推察する。
二足歩行から喉頭が広がり、発声の幅が広がっていった私たちの祖先は、
非常に多種多様な音色でおしゃべりしていたらしい。
そして、ネアンデルタールは、なんと歌いながら会話していたのだ!
新説を打ち立てたわりに抑制のきいた文章は好感が持てます。
なにより「太古の地球は音楽に満ちていた」という光景は
夢があっていいですよね。
スティーヴン・ピンカーの「音楽なんてことばのおまけでしょ」という説に対して、
「ならなんで進化を遂げた現代人は歌ったり踊ったりして楽しんでるんだい?」と真っ向から対決。
前半では、言語と音楽の脳内での処理機構は別々に発達した可能性を示唆。
失語症や失音楽症といった臨床例を挙げ、自らの説を裏付けしていく。
後半では、いよいよ「歌うネアンデルタール」の世界に。
発掘された遺跡や骨から、アウストラロピテクスのルーシーや
ホモエレクトスたちがどのような会話をしていたか推察する。
二足歩行から喉頭が広がり、発声の幅が広がっていった私たちの祖先は、
非常に多種多様な音色でおしゃべりしていたらしい。
そして、ネアンデルタールは、なんと歌いながら会話していたのだ!
新説を打ち立てたわりに抑制のきいた文章は好感が持てます。
なにより「太古の地球は音楽に満ちていた」という光景は
夢があっていいですよね。