ひとことで言うと、ウェス・アンダーソン監督のデビュー作〜10作目『フレンチ・ディスパッチ』を鑑賞する際のガイドブックとしておすすめの本です!
(11作目『アステロイド・シティ』、アカデミー賞受賞の短編『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』についての言及はありません)
* * * * * * * * * *
以下、ちょっと細かい話になります…
【本書以外のウェス・アンダーソン本】
豊富な図版と共にウェス・アンダーソン監督の作品を解説する本としては、The Wes Anderson Collectionシリーズが先行して出ていますが、残念ながら部分的にしか日本語版がなく、その日本語版も結構高価で、廉価な電子書籍もないため、なかなか入手しにくい状況になっています。
①The Wes Anderson Collection
デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』~7作目『ムーンライズ・キングダム』について
(英語版)
https://amzn.asia/d/goRedXp
②The Wes Anderson Collection: The Grand Budapest Hotel
8作目『グランド・ブダペスト・ホテル』について
(英語版)
https://amzn.asia/d/cTdtMEA
(日本語版)
https://amzn.asia/d/0F2IpGt
③The Wes Anderson Collection: Isle of Dogs
9作目『犬ヶ島』について
(英語版)
https://amzn.asia/d/73oY5Xr
(日本語版)
https://amzn.asia/d/eLCyYh8
④The Wes Anderson Collection: The French Dispatch
10作目『フレンチ・ディスパッチ』について
(英語版)
https://amzn.asia/d/dmul4Mi
(日本語版 2024年5月刊行予定)
https://amzn.asia/d/19yzvqo
上記のシリーズとは別に、6作目『ファンタスティック Mr.FOX』については超すばらしきメイキング本が出ており、日本語版もありますが、電子書籍はありません。
(英語版)
https://amzn.asia/d/acgDi41
(日本語版)
https://amzn.asia/d/2swHDOf
また、詩と批評の月刊誌『ユリイカ』には過去2回、ウェス・アンダーソン特集号があります。
◯2014年6月号 (電子書籍なし)
デビュー作〜8作目について
https://amzn.asia/d/gIJO47l
◯2018年6月臨時増刊号 (電子書籍あり)
2014年版の内容に、9作目『犬ヶ島』関連の記事を新たに追加したもの
https://amzn.asia/d/0bah0mp
文字がびっしりの論文集のような感じで、図版も少なめ(あったとしてもほとんど白黒)なので、気軽に読めるものではなく、研究熱心なファン向け。ウェス・アンダーソンと日本を結ぶ架け橋的役割を果たしている野村訓市氏へのインタビューが面白い。
【本書の良い点】
こうした中で本書は、デビュー作から10作目までを1冊で俯瞰しながら謎めいたウェス・アンダーソン像に迫る評伝であり、図版が豊富でとっつきやすく、日本語訳されていて、お値段も先行書よりは安く、電子書籍もある、ということで、非常にお得でありがたい存在です。
目次には載っていませんが、ところどころに挟まれるコラムも豆知識として面白いので、ここに概要を書き出しておきます。
■鑑賞のお供
ウェス・アンダーソン作品に頻出するモチーフについて(芸術品、食べ物、カーキ、ベレー、髭、双眼鏡、リスト、Futura、時代遅れの音響機材、交通手段)
■王立アンダーソン劇団
常連俳優たちの紹介
■ウェス・アンダーソンの道具箱
特徴的な映像表現について(完璧な左右対称構図、長いカメラ移動、明るい色彩設計、見下ろし構図、スローモーション)
■ウェスの世界の森羅万象
セットと小道具について(グランド・ブダペスト・ホテル、べラフォンテ号、ダージリン急行、テネンバウム邸、アナグマ氏のオフィス、ベトナム、スージーが所有する本、ゴミ島)
■ウェス・アンダーソン急行
監督した10作品+短編作品だけでなく、プロデューサー業や声の出演、カフェのデザインなども含めた年表
■完璧な形
短編とコマーシャル(IKEA、アメリカン・エキスプレス、ホテル・シュヴァリエ、ソフトバンク、ステラ・アルトワ、プラダ、H&M)
■偉大なる父たち
ウェス・アンダーソンに影響を与えた人たち(フランソワ・トリュフォー、マーティン・スコセッシ、ハル・アシュビー、サタジット・レイ、ルイ・マル、オーソン・ウェルズ、黒澤明、エルンスト・ルビッチ、マイケル・マンの『ヒート』、J・D・サリンジャー、エルジェ、チャールズ・M・シュルツ、ポーリン・ケイルの映画批評)
【本書の残念な点】
内容が盛りだくさんでとても読み応えがある一方、残念なのは、日本語版については誤記や誤訳らしきものが散見されることです。(これにより星-1)
表紙~イントロダクションの終わり(11ページ)までを例に挙げると…
■表紙カバーおよび表紙
THE ICONIC [FLMMAKER] AND HIS WORK
→FILMMAKER
■6ページ27行目
[出来合い]のロープを揺らして大地に降り立つことができるなら、正面玄関から歩いて外に出るなぞ[もっての他]なのだ。
→簡単にできる方法を選ばずにあえて手間をかけようとするウェス・アンダーソンの姿勢を、『アンソニーのハッピー・モーテル』の冒頭場面になぞらえて表現しているのだが(何枚も結んで繋ぎ合わせたシーツをロープ代わりに窓から垂らして精神病院から脱走する)、[出来合い]は既製品のことなので、全く逆の意味になってしまう。原文では"makeshift"なので、「間に合わせの」とか「仮ごしらえの」が適当だと思われる。また「もってのほか」は道理から外れているということで、漢字で書くなら、「もっての外」
■10ページ24行目
[目にも眩い]Aリスト俳優たち
→「目にも鮮やかな」であれば馴染みがあるが、[目にも眩い]はあまり聞いたことがない。シンプルに「眩い」か、「目眩く(めくるめく)」、あるいは、きらびやかで正視できないさまを表す「目も綾な」がよいのでは。
■11ページ12行目
ウェス・アンダーソンの映画を観れば、どこのどいつが作ったかすぐわかる。でも彼のスタイルを言葉で言い表すのは難しい。最高のスタイルというものは、どれも[目立たない]からだ。
→映画監督/批評家のピーター・ボグダノヴィッチがウェス・アンダーソン作品を評して言った言葉。前半で観ればすぐわかると言いながら、後半で[目立たない]から言い表せないというのは矛盾している。原文は"subtle"なので、「繊細」「つかみどころがない」が適当だと思われる。
…というように、11ページまででこれだけ見つかるので、220ページ以上ある本書全体にはどれほどの誤記・誤訳があるのか…。完璧主義の監督についての本もまた完璧であってほしい、と願ってしまうのは贅沢かもしれませんが。
ウェス・アンダーソン監督のファン、これからファンになる人にとって必携の書と言ってもいいぐらいのすばらしい内容なので、いつか改訂されることを祈っています。
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ウェス・アンダーソン 旅する優雅な空想家 単行本 – 2022/2/26
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購入オプションとあわせ買い
「映画を作るというのは、混沌を整頓しようとしながら、同時に新しい混沌を生み出してしまうことなのです」
ポップかつシニカル、そして大胆な脚本。キャッチーな色彩とディテールで構築されたセットや小道具の数々。精巧な構図とカメラ移動で生み出されるマジカルな空間演出。そしてひとクセもふたクセもありながら誰もが愛さずにはいられない登場人物たち……。
日本国内のみならず世界中に熱狂的な信者を持つウェス・アンダーソン。この一人の芸術家をめぐり、最新作『フレンチ・ディスパッチ』を含むその全てを総括する評伝がついに刊行!
長編デビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』から『フレンチ・ディスパッチ』まで、素晴らしくも困惑に満ち、個性的かつ一点の汚れもないような10本の映画たちを監督したウェス・アンダーソン 。監督作品のその優れた作家性のみならず、ファッション、音楽、美術、など彼の作品をとりまくディテールは多くの人を魅了する。
本書では、長編監督作はもちろん、『ホテル・シュヴァリエ』『カステロ・カヴァルカンティ』といった短編全作をカバーし、さらには監督が影響を受けた人物や映画作品、プライベートな交友関係についても紹介。あますことなくウェス・アンダーソンの「人生」を詰め込んだ1 冊となっている。
ウェス・アンダーソンの作品に絶妙な親しみやすさを与えているのは、他の誰の映画とも違うという事実に他ならない。 コーデュロイのスーツから、ABC順に整頓された本棚から、アート映画への参照から、アナグマに扮したビル・マーレイに至るまで、彼の映画は彼自身の人生の、そして人格の延長なのだ。
各作品の原点をたどり、インスピレーションの源を探り、どのような過程を経て作品が生まれているのか。多くの美しい場面写真やオフショットとともに、その知られざる神秘を紐解いていく。
【目次】
イントロダクション
1. アンソニーのハッピー・モーテル(1996 年)
2. 天才マックスの世界(1998 年)
3. ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001 年)
4. ライフ・アクアティック(2004 年)
5. ダージリン急行(2007 年)
6. ファンタスティック Mr.FOX(2009 年)
7. ムーンライズ・キングダム(2012 年)
8. グランド・ブダペスト・ホテル(2014 年)
9. 犬ヶ島(2018 年)
10. フレンチ・ディスパッチ(2021)
- 本の長さ223ページ
- 言語日本語
- 出版社フィルムアート社
- 発売日2022/2/26
- 寸法18.4 x 2 x 21 cm
- ISBN-104845921154
- ISBN-13978-4845921157
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商品の説明
著者について
【著者】 イアン・ネイサン(Ian Nathan)
映画ライター。著書に『クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男』(フィルムアート社)『エイリアン・コンプリートブック』『スティーヴン・キング 映画&テレビ コンプリートガイド』(以上、竹書房)『ティム・バートン 鬼才と呼ばれる映画監督の名作と奇妙な物語』(玄光社)などがある。映画雑誌『エンパイア』の編集者およびエグゼクティブ・エディターを務めた後、現在は『エンパイア』誌のほか、『タイムズ』紙、『インディペンデント』紙、『メイル・オン・サンデー』紙、『カイエ・デュ・シネマ』誌などに寄稿を行っている。
【訳者】 島内哲朗(しまうち・てつろう)
映像翻訳者。字幕翻訳を手がけた主な劇映画には「朝が来る」「大怪獣のあとしまつ」「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」「海辺の映画館―キネマの玉手箱」「AI崩壊」「護られなかった者たちへ」「さがす」「キングダム」「スマホを落としただけなのに」「愛のむきだし」「チワワちゃん」「野火」「サウダーヂ」「GANTZ」「忍たま乱太郎」等がある。翻訳した書籍には、フランク・ローズ『のめりこませる技術 誰が物語を操るのか』、カール・イグレシアス『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』、シーラ・カーラン・バーナード『ドキュメンタリー・ストーリーテリング[増補改訂版]』、ジェシカ・ブロディ『Save the Catの法則で売れる小説を書く』(以上、フィルムアート社)等がある。
映画ライター。著書に『クエンティン・タランティーノ 映画に魂を売った男』(フィルムアート社)『エイリアン・コンプリートブック』『スティーヴン・キング 映画&テレビ コンプリートガイド』(以上、竹書房)『ティム・バートン 鬼才と呼ばれる映画監督の名作と奇妙な物語』(玄光社)などがある。映画雑誌『エンパイア』の編集者およびエグゼクティブ・エディターを務めた後、現在は『エンパイア』誌のほか、『タイムズ』紙、『インディペンデント』紙、『メイル・オン・サンデー』紙、『カイエ・デュ・シネマ』誌などに寄稿を行っている。
【訳者】 島内哲朗(しまうち・てつろう)
映像翻訳者。字幕翻訳を手がけた主な劇映画には「朝が来る」「大怪獣のあとしまつ」「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」「海辺の映画館―キネマの玉手箱」「AI崩壊」「護られなかった者たちへ」「さがす」「キングダム」「スマホを落としただけなのに」「愛のむきだし」「チワワちゃん」「野火」「サウダーヂ」「GANTZ」「忍たま乱太郎」等がある。翻訳した書籍には、フランク・ローズ『のめりこませる技術 誰が物語を操るのか』、カール・イグレシアス『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』『脚本を書くための101の習慣 創作の神様との付き合い方』、シーラ・カーラン・バーナード『ドキュメンタリー・ストーリーテリング[増補改訂版]』、ジェシカ・ブロディ『Save the Catの法則で売れる小説を書く』(以上、フィルムアート社)等がある。
登録情報
- 出版社 : フィルムアート社 (2022/2/26)
- 発売日 : 2022/2/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 223ページ
- ISBN-10 : 4845921154
- ISBN-13 : 978-4845921157
- 寸法 : 18.4 x 2 x 21 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 213,367位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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