見慣れた街の中でふと交錯する視線。自己と他者、その日々のまなざしが不思議な魅力となって世界を横切る……。
1983年、3冊の作品集を残しわずか36歳で夭逝した写真家、牛腸茂雄。彼の写真のまなざしは没後しだいに味わいを増し、人々の心をとらえていった。
特別な技巧をこらしているわけではない。だが、なぜか記憶に深く食いこみ、魂を揺さぶるような力を備えている牛腸茂雄の写真。遺品のひとつにカセットテープがあり、この映画の中でだれにともなく語りかける牛腸重雄の声が録音されている。
「もしもし、きこえますか。もしもし、きこえますか……」
孤独な命が全世界へ向けて声を発しているような生々しさが胸を打つ。
『SELF AND OTHERS』は、ドキュメンタリー映画の新たな地平を切り拓いた佐藤真監督が、牛腸ゆかりの地に立ち、残された草稿や手紙と写真、肉声をコラージュし、写真家の評伝でも作家論でもない新しい映像のイメージを提示する衝撃の映画である。