最近観た中で最高の作品でした。
まさに心震える名作。
大辞典編纂という国家的事業の裏に秘められた、携わった人々の悲劇、苦闘、友情、そして愛憎から赦しへの困難な心の旅路…
二時間という、そう長くない尺ながら、重厚なストーリーがバランスよく詰められ、じっくり見入ってしまう壮大な作品でした。
今も世界中で続く戦争とテロによる報復…
まさに怨恨の連鎖が断ち切られることは、ほとんど不可能のようにも思えます。
結局、どこかその怨恨のリンクの中で、誰かが誰かを赦す…という当たり前のことが絶対に必要な筈なのですが、それがいかに人間にとって難しいことなのか…
その命題がこの作品の中で重要なプロットを占めています。
ここで描かれるのはテロと戦争の犠牲者の物語ではありませんが、より身近な問題とも言える、犯罪者と犯罪被害者遺族との間の憎悪、理解、赦し…というプロセス。
被害者遺族である女は、初めは、殺人者からの謝罪と償いの意である金品の受け取りを拒否します。彼女からすれば、一家の稼ぎ頭である夫を失い子供を食べさせることもままならないほどの窮状にあるため、喉から手が出るほど、(謝罪はともかく)金員を受け取りたい欲求はあるのですが、プライドと、何より犯人の謝罪を受け入れ憎しみを失うことになる自分が怖く、なかなかそうはできないのです。
この辺の心の葛藤は、現実の日本の刑事事件の被害者遺族のそれとしてもよく聞く話で、非常に理解のできる展開でした。
現実には、この作品のように、自らの犯した罪について正面から向き合い、その重大さに気づき、残りの人生を懸けて被害者遺族に償って生きたい…と思うに至る犯罪者などは少ないようですが、少数ながらもいることはいるようです。
そういう犯罪者からの心からの謝罪の声が届いた時、大事な肉親を奪われた被害者遺族の側の対応はどうなのか???
僕ももちろん全てのケースについて、それを知る由はありませんが、やはり初めから簡単には犯人の面会の求めに応じることなんかできないのが普通です。至極当然のことでしょう。被害者本人と自分を一瞬にして奈落の底に突き落とした、憎んでも憎みきれない相手ですから。それが人間というものだと思います。
僕が知っているケースでは、犯人は、断られても断られても手紙を書き続け、やっと最後には謝罪を受け入れてもらい、"赦し"を得たようです。
いや、被害者遺族は、"赦した"という言い方をしてなかったかもしれません。犯人が残りの人生を懸けて(単に慰謝料を支払い続けるという意味ではなく)罪の十字架を背負い真っ当な人生を歩むことを条件に、被害者遺族も憎むことを放棄し、相手が"存在することを"許した…というような表現だった気がします。
映画でも描かれてましたが、屈辱の人生を強いられる遺族のプライドもあるし、赦す"自分を許せない、"赦す"ことで忘れてしまうかもしれない自分が怖い、あるいは殺された被害者本人の無念の思いに対して面目がたたない… 遺族の側が謝罪を受け入れることに対し本当に複雑な葛藤を抱えるのは当然とも言えるでしょう。
この辺の、喪失者側の愛憎から赦しへの心のプロセスなんて、結局、体験しないものにはわからないことだと思います。いや、(残念ながら)当事者となった方たちでも説明できないことなのかもしれません。頭では赦したつもりでも、ある時なにかの拍子に思い出し、犯人への怒りを再燃させることもあると思うのです。人間の心なんて、簡単に理屈で割り切れるものではありません。何層にも積み重なった心のひだのそのまた下に今なおどういう感情が隠されているのか… 自分自身ですらわかるべくもないからです。
それでも、私の知るケースで、被害者遺族が犯人の謝罪を受け入れるようになった一因として、何より"憎み続ける"ことに疲れた…との心情を吐露していました。
初めは、抑えられないほど燃えたぎる怒りの炎も、時が経つにつれ、やがて能動的に薪をくべ続けなくては、自ら意識的に燃やし続けなければ維持させることが難しい…そういうものらしいです。人間の忘却能力というのでしょうか… 憎み続けるのもエネルギーがいるということです。
哀しい過去は受け入れて、残された自分は自分の人生を歩んでいかなければならない…
遺族の側がそう思うに至ったとき、犯人の側も真摯に謝罪と償いの人生を歩もうとするのであれば、互いの残された人生を悔いなく生きるためやっと、犯人の謝罪を受けいれる…そういう転機が訪れるのかもしれません。
これが"赦し"の一つの形でしょう。
…長くなりましたが、自分としては、この"赦し"からやがて"愛"にまで昇華した被害者女性と犯人たる元軍医の愛憎のストーリーがとても心を打ちました。
しかし、作品で描かれるのは、この愛憎劇だけではありません。
それとも重大に絡んできますが、元軍医自身のトラウマとそれに起因する病との苦闘そして再生のストーリー、そんな彼を国家的事業に携わせることにより、自身の大きな助けとするだけでなく、彼の誇りと人生を取り戻すきっかけを与えることになる"博士"の友情…
辞典編纂事業そのものに立ちふさがる大きな困難。。。
盛り込まれたストーリーは本当に幾重にも積み重ねられ、それぞれが複雑に絡み合って展開していくのですが、それだけのボリュームがあるのにうまくまとめられ叙情的につづられていきます。
オクスフォードの絵画のような風景もストーリーを彩るのに大きな役割を果たしており、ため息が出るほど美しいシーンばかりです。
最後に言及すべきは兎にも角にも、ショーンペンの名演技と存在感でしょう。
元々、"パンク"で尖った役柄をやらしたら素晴らしい演技を見せてきたペン。
ここに来て新境地と言って良いのではないでしょうか。従来の演技力に加えて、人生を重ね顔体に染みついた年輪は、彼を哲学者のように思わせます。
メル演じる"博士"と庭で語らうシーン、深い皺と長い髭と白髪に覆われた風貌で微笑む表情は、優しい午後の陽光がさして神々しいまでの存在感を放っていたように思います。
僕的にはショーンペンの演技の最高傑作ではないかと思いましたね。
このペンの演技を前にするとやや霞んでしまうなぁ…とは思いましたが、メルも本当に素晴らしい。
アクション俳優から、心の機微を表現し、静かで落ち着いた演技をやるまでに見事に転身されたなあ…と思います。
元々はマックスやリッグスの大ファンでもありましたからね。感慨もひとしおです。
二大名優の共演による、静かで、しかし激しい一大叙事詩。
みなさんにも、時間があるときに、画面に向かい合ってしっかり鑑賞し、心から泣いてほしいと思います。
多くの人に観てもらいたい感動作です。
プライム無料体験をお試しいただけます
プライム無料体験で、この注文から無料配送特典をご利用いただけます。
非会員 | プライム会員 | |
---|---|---|
通常配送 | ¥410 - ¥450* | 無料 |
お急ぎ便 | ¥510 - ¥550 | |
お届け日時指定便 | ¥510 - ¥650 |
*Amazon.co.jp発送商品の注文額 ¥3,500以上は非会員も無料
無料体験はいつでもキャンセルできます。30日のプライム無料体験をぜひお試しください。
博士と狂人(特典なし) [Blu-ray]
12パーセントの割引で¥4,651 -12% ¥4,651 税込
参考価格: ¥5,280 参考価格: ¥5,280¥5,280
他に注記がない場合、参考価格とは、製造業者、卸売業者、輸入代理店(「製造業者」)などの小売業者以外が設定した、商品のカタログなど印刷物で発表された、または製造業者が小売業者に提示する参考価格・推奨小売価格を意味します。ただし、Amazonが製造・販売するデバイスの参考価格については、他に注記が無い場合、個人のお客様向けに最近相当期間表示されていた価格を意味します(注記の内容を含む参考価格の詳細については、該当する商品詳細ページをご確認ください)。なお、割引率の表示は1%毎に行われており小数点以下は四捨五入しています。
詳細はこちら
詳細はこちら
{"desktop_buybox_group_1":[{"displayPrice":"¥4,651","priceAmount":4651.00,"currencySymbol":"¥","integerValue":"4,651","decimalSeparator":null,"fractionalValue":null,"symbolPosition":"left","hasSpace":false,"showFractionalPartIfEmpty":true,"offerListingId":"RzimWId6OFxsH2U6wDidKHbqWF2Hj9woBPH%2Bj%2BwjI8l9LaFyP7YGV%2FktuEQ63GN18%2BykbvT8pZXawUGTnzBSfuIsR3a5x40cCi6gnnZ2tVj4Dl1eQXYD2LIpUn8v%2FobSGYozMylKniw%3D","locale":"ja-JP","buyingOptionType":"NEW","aapiBuyingOptionIndex":0}]}
購入オプションとあわせ買い
フォーマット | 色, ドルビー, ワイドスクリーン |
コントリビュータ | メル・ギブソン, スティーヴ・クーガン, ベアー・マクレアリー, P・B・シェムラン, メル・ギブソン,ショーン・ペン, エディ・マーサン, ジェニファー・イーリー, トッド・コマーニキ, ナタリー・ドーマー, ショーン・ペン 表示を増やす |
言語 | 英語, 日本語 |
稼働時間 | 2 時間 4 分 |
よく一緒に購入されている商品
対象商品: 博士と狂人(特典なし) [Blu-ray]
¥4,651¥4,651
一時的に在庫切れ; 入荷時期は未定です。
注文確定後、入荷時期が確定次第、お届け予定日をEメールでお知らせします。万が一、入荷できないことが判明した場合、やむを得ず、ご注文をキャンセルさせていただくことがあります。商品の代金は発送時に請求いたします。
¥880¥880
最短で6月2日 日曜日のお届け予定です
残り4点(入荷予定あり)
総額:
当社の価格を見るには、これら商品をカートに追加してください。
ポイントの合計:
pt
もう一度お試しください
追加されました
一緒に購入する商品を選択してください。
この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています
ページ 1 以下のうち 1 最初から観るページ 1 以下のうち 1
商品の説明
"歴史はこの2人から始まった――。
メル・ギブソン×ショーン・ペン
孤高の学者と、呪われた殺人犯。
世界最大の英語辞典誕生に隠された、真実の物語。"
19世紀、独学で言語学博士となったマレーは、オックスフォード大学で英語辞典編纂計画の中心にい
た。シェイクスピアの時代まで遡りすべての言葉を収録するという無謀ともいえるプロジェクトが困
難を極める中、博士に大量の資料を送ってくる謎の協力者が現れる。その協力者とは、殺人を犯し精
神病院に収監されていたアメリカ人、マイナーだった――。
[スタッフキャスト]
キャスト
ジェームズ・マレー メル・ギブソン
ウィリアム・チェスター・マイナー ショーン・ペン
イライザ・メレット ナタリー・ドーマー
マンシー エディ・マーサン
エイダ・マレー ジェニファー・イーリー
フレデリック・ジェームズ・ ファーニヴァル スティーヴ・クーガン
スタッフ
監督・脚本 P.B.シェムラン
共同脚本 トッド・コマーニキ
音楽 ベアー・マクレアリー
衣装 イマー・ニー・ヴァルドウニグ
編集 ディノ・ヨンサーテル
美術 トム・コンロイ
撮影 キャスパー・トゥクセン
[発売元]
カルチュア・パブリッシャーズ
[クレジット表記]
(C)2018 Definition Delaware, LLC. All Rights Reserved.
登録情報
- アスペクト比 : 2.35:1
- 言語 : 英語, 日本語
- 製品サイズ : 30 x 10 x 20 cm; 80 g
- EAN : 4988013857773
- 監督 : P・B・シェムラン
- メディア形式 : 色, ドルビー, ワイドスクリーン
- 時間 : 2 時間 4 分
- 発売日 : 2021/3/24
- 出演 : メル・ギブソン, ショーン・ペン, ナタリー・ドーマー, エディ・マーサン, ジェニファー・イーリー
- 字幕: : 日本語
- 言語 : 日本語 (Dolby Digital 5.1), 英語 (Dolby Digital 5.1)
- 販売元 : ポニーキャニオン
- ASIN : B08TBQ5ZS4
- 原産国 : 日本
- ディスク枚数 : 1
- Amazon 売れ筋ランキング: - 69,388位DVD (DVDの売れ筋ランキングを見る)
- - 6,253位ブルーレイ 外国映画
- - 6,368位外国のドラマ映画
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2023年2月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2023年2月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
リンゴと言われれば、あらゆる無数にあるリンゴを世界から集める事が出来るのが
人間の特性です。これが可能なのはリンゴという本質が分かっているから無数の
リンゴを他よりとりわけ集められるのです。
自分という日本語は、自ら分けると書きますね。
人間の特性です。これが可能なのはリンゴという本質が分かっているから無数の
リンゴを他よりとりわけ集められるのです。
自分という日本語は、自ら分けると書きますね。
2024年3月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
メルギブソンとショーンペン、どちらもなんか違う。メルギブソンはこういうインテリの役はあわないかも。ショーンペンはなにを演じてもショーンペンから抜け出せない。残念な映画でした。
2023年10月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
久々にショーンペンの良さが出てる作品を観た。
素晴らしく熱演です。
素晴らしく熱演です。
2023年2月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
大辞典を編纂しようとする男2人の友情の物語。
渋めの作品が好きな方におススメ。
たぶん多くの人が見終わった後、ちょっと知的な気分になれる。
渋めの作品が好きな方におススメ。
たぶん多くの人が見終わった後、ちょっと知的な気分になれる。
2023年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「舟を編む」の海外版のような要素もふんだんに含まれ、このような使命感と情熱を持った人々の地道で根気のいる作業によって言語というものは残され、その質を維持して行けるのだと改めて思わせられました。
そして、この作品は実話でもあり、聖書的な罪、悔い改め、許し、和解、真の友情、それからの愛等が丁寧に現わされており、それをメル・ギブソンとショーン・ペンという二人の名優が見事に演じきっていると思いました。
そして、この作品は実話でもあり、聖書的な罪、悔い改め、許し、和解、真の友情、それからの愛等が丁寧に現わされており、それをメル・ギブソンとショーン・ペンという二人の名優が見事に演じきっていると思いました。
2022年2月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ショーン・ペンが熱演をすればするほど暗く鬱陶しくなる映画でした。
辞書つくりは批判しにくいし金田一さん大変ですね としかいいようがないが
それでよいのか広辞林
辞書つくりは批判しにくいし金田一さん大変ですね としかいいようがないが
それでよいのか広辞林
2023年2月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
内容も音楽も映像も、全てが凄い。
主柱に辞書を扱う内容なのに、言葉を失うほど良い映画。
主柱に辞書を扱う内容なのに、言葉を失うほど良い映画。