はじめに
平成30年6月29日、働き方改革関連法が可決成立し、同年7月6日公布されました。その後、年次有給休暇の5日の確実取得、時間外労働の罰則による上限規制（自動車運転者を除く。36協定届の様式変更）、同一労働同一賃金などが順次施行されるとともに、今後、中小企業における月60時間超の時間外労働に係る割増賃金率の引上げ（50％以上。令和5年4月から）、自動車運転者の時間外労働の上限規制及び改正改善基準告示の適用（令和6年4月から）などが予定されています。
タクシー事業は公共交通機関として安全・安心・快適な輸送サービスを24時間提供することを使命とし、社外での単独業務であること、変形労働時間制によるシフト勤務を採用していること、賃金は歩合給制が中心となっていることなど他産業にはない労務管理面での特別な配慮を必要としています。
また、少子高齢化等に伴う労働者不足、新型コロナウイルスの感染拡大とタクシー需要の急激な減少の中、厳しい人材確保難に直面しています。
こうした中、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会労務委員会では、令和2年度事業計画において、タクシー事業者が直面する労務問題に的確に対応し、有為な人材を確保できるよう、業界の実情を踏まえた労務管理のＱ＆Ａ集を作成することとしました。そして令和2年9月、労務管理検討部会を設置し、以後12回の会合を重ね、今般、Ｑ＆Ａ集を完成し、「タクシー事業のための 労務管理一問一答」として出版することといたしました。
本書は、タクシー事業に関連した200問にわたる実務的なＱ＆Ａを人材確保・労務管理の各場面に応じ、採用、労働契約、労働時間、年次有給休暇、賃金、同一労働同一賃金、安全衛生、その他の八つの章に体系化して示しており、次のような特徴を有しています。
① 労務に関する基礎的な知識から最新の労務問題まで多数かつ詳細なＱ＆Ａを収録しているので、タクシー業界に入って日の浅い労務担当者から、ベテランの労務担当者まで活用できる内容となっていること。
② 各章の冒頭には総論として基本的な事項についてのＱ＆Ａを収録しているので、総論から各論へと理解することが可能となっていること。
③ 法令の解説のみでなく、労働基準監督署等が行政指導する際の根拠となる解釈例規や裁判例も多く収録していること。
④ できるだけわかりやすくするため、多くの図を示すとともに計算例・規定例などの具体例を示していること。
⑤ 一問一答形式なので、どこから読み始めても必要な回答が得られること。
⑥ 各回答の多くには関連するＱ＆Ａを参照できるよう付記しているので、より立体的な理解が可能となること。
タクシー事業者の皆様には、働き方改革の実現に向けた労働条件の見直し・改善に当たり、是非本書を一つの重要な参考資料として活用いただくようお願いいたします。
なお、本書を参考に労働条件を変更する場合、それが適法であっても各社の実態によっては労働条件の不利益変更など労使トラブルを発生させるケースも考えられますので、事前に労使間で十分な話合いを行い、コンセンサスを得た上で実施するようにしてください。
令和3年8月
一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会
労務委員会委員長 清水 始
