■「利他」の東西の思想史を踏まえ、その実践を考える、というコンセプトの入門本。
■章は仏教、儒教、江戸時代の日本の実践者、西洋思想の4章構成。これら仏教、儒教、西洋哲学・キリスト教を見渡しても、「利他」が生まれるには「愛」・「仁」・「菩提心」が必要であると、言葉は違えど同じ概念で説いていることが理解できる。
■いくつか印象にのこったことをメモ:
・「利他」は、自己の受容(自分を愛すること)からはじまる
・「愛」「仁」「菩提心」の前では、すべての人はただ人間であるということにおいて等しく貴い存在である=人格の相互尊重
・「利他」とは、各人の特性を保ちながらも不可分な関係として調和していることの実践。それを分断するのが名誉、富、権力といった社会的価値観の絶対化である。
■(備忘メモ)本書は「利他」を、中島岳志氏がいうところの「多元主義的一元論(多一論)」という考え方(=「世界はバラバラで多元的だけれども真理はひとつである、もしくはひとつである真理が多元的にあらわれている」「真理はこの世界においては多元的にあらわれざるを得ない」中島氏の引用は『愛国と信仰の構造』(集英社新書2016年)のp.209と213から)で語っていると感じました。西洋(+キリスト教)でいう「愛」、儒教でいう「仁」、仏教でいう「菩提心」が、同じ内容(真理)でありながらも、多元的にあらわれているものという扱いでした。
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はじめての利他学 NHK出版 学びのきほん Kindle版
他者だけでなく、自分も利する「利他」の本質とは。
「利他」という言葉は「自分ではなく、他者のためにおこなうこと」だと捉えられがちだ。しかし、日本の起源から利他を見つめ直してみると、それとは全く異なる姿が見えてくる。空海の「自利利他」、孔子の「仁」、中江藤樹の「虚」、二宮尊徳の「誠の道」、エーリッヒ・フロムの「愛」……彼らは利他をどのようにとらえ、それをどう実践して生きたのか。彼らの考える利他は、現代とどう違うのか。「自分」があってこその利他のちからとは、どんなものなのか。日本を代表する批評家が、危機の時代における「自他のつながり」に迫る、日本初・利他の入門書。
「利他」という言葉は「自分ではなく、他者のためにおこなうこと」だと捉えられがちだ。しかし、日本の起源から利他を見つめ直してみると、それとは全く異なる姿が見えてくる。空海の「自利利他」、孔子の「仁」、中江藤樹の「虚」、二宮尊徳の「誠の道」、エーリッヒ・フロムの「愛」……彼らは利他をどのようにとらえ、それをどう実践して生きたのか。彼らの考える利他は、現代とどう違うのか。「自分」があってこその利他のちからとは、どんなものなのか。日本を代表する批評家が、危機の時代における「自他のつながり」に迫る、日本初・利他の入門書。
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2022/4/25
- ファイルサイズ7089 KB
- 販売: Amazon Services International LLC
- Kindle 電子書籍リーダーFire タブレットKindle 無料読書アプリ
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商品の説明
著者について
1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集 見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、第16回蓮如賞受賞。その他の著書に『悲しみの秘義』(文春文庫)、『種まく人』『詩集 美しいとき』(亜紀書房)、『詩と出会う詩と生きる』『14歳の教室 どう読みどう生きるか』『考える教室 大人のための哲学入門』(NHK出版)など。
登録情報
- ASIN : B09YHNCJKZ
- 出版社 : NHK出版 (2022/4/25)
- 発売日 : 2022/4/25
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 7089 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効にされていません
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 108ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 8,767位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- - 183位哲学・思想 (Kindleストア)
- カスタマーレビュー:
著者について
著者をフォローして、新作のアップデートや改善されたおすすめを入手してください。
1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。
2007 年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14 回三田文学新人賞受賞。
2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』にて第2回西脇順三郎学術賞受賞。
2018年詩集『見えない涙』で第33回詩歌文学館賞を受賞。
2018年、『小林秀雄 美しい花』で角川財団学芸賞を受賞。
2019年、『小林秀雄 美しい花』で蓮如賞を受賞。
著書に『井筒俊彦 叡知の哲学』(慶応義塾大学出版会)、『生きる哲学』(文春新書)、『霊性の哲学』(角川選書)、『悲しみの秘義』(ナナロク社)、『イエス伝』(中央公論新社)『霧の彼方 須賀敦子』(集英社)『言葉の贈り物』『弱さのちから』(亜紀書房)など。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年1月21日に日本でレビュー済み
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2022年11月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
自己中心的に生きているような思いがずっと頭から離れず、悩んでいました。他人の為に行動しても、「それは結局自分のためにしているのではないか」と感じ、すっきりしませんでした。本書を読み、忘己利他や自利利他の考えに触れたこと、そして自分を愛することが他者を愛する必要不可欠な要素であるという考えに触れたことで、自分の生き方を前向きに捉えられるようになった気がしました。読んでよかったと思います。
2022年5月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
学びのきほん
であって
答えは書いてない
そこがよかったです。
であって
答えは書いてない
そこがよかったです。
2022年5月10日に日本でレビュー済み
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「利他学」というタイトルに興味を惹かれて購入。「利他」という言葉は日常ではあまり使われないが、尊敬してやまない経営者・稲盛和夫さんが著作などで多用する。本書はページ数が少なく活字も大きいうえ、語りかけるような文章なので読みやすい。だが意外に主旨がわかりにくく「利他とは何か」の結論をはぐらかされたような気がする。
最初にとりあげるのは、日本で利他の言葉を初めて使った空海と、忘己利他を主唱した最澄の二人。自己を深める空海に対して自己を忘れるのが最澄というが、違いがよくわからない。そこに道元の正法眼蔵が加わるため、相互の関連がつかめずに頭は混乱するばかり。その後も孔子、孟子、吉田松陰、西郷隆盛、二宮尊徳、アラン、フロムなど古今東西・和漢洋の人物が総動員されるが、肝心な点の解説はポエムで終章での回収や総括もない。
著者の主張をまとめると「利他の本質は自分と他者が深くつながることで、菩提心の目覚めと自分自身への愛情が必要」といったところか。そのためには「まず自分を信じること」とアドバイスする(表紙にも記載)が、とってつけたような結論に思える。
最初にとりあげるのは、日本で利他の言葉を初めて使った空海と、忘己利他を主唱した最澄の二人。自己を深める空海に対して自己を忘れるのが最澄というが、違いがよくわからない。そこに道元の正法眼蔵が加わるため、相互の関連がつかめずに頭は混乱するばかり。その後も孔子、孟子、吉田松陰、西郷隆盛、二宮尊徳、アラン、フロムなど古今東西・和漢洋の人物が総動員されるが、肝心な点の解説はポエムで終章での回収や総括もない。
著者の主張をまとめると「利他の本質は自分と他者が深くつながることで、菩提心の目覚めと自分自身への愛情が必要」といったところか。そのためには「まず自分を信じること」とアドバイスする(表紙にも記載)が、とってつけたような結論に思える。
2022年5月24日に日本でレビュー済み
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人に薦められたり、流行ってるから読む、勉強したいから読む。といった動機で読むよりかは、"なんとなく読みたい気がするから読む"くらいの感覚で気楽に読んだ方がいい本だと感じました。文章もやさしい書き方で、ボリュームも多すぎない丁度いい量なので、余裕がある休日にゆったりと読んで欲しい本だなぁと思いました。
2022年12月18日に日本でレビュー済み
1.内容
タイトル通りの本だが(「大切なのは、まず自分を信じること」が結論だから)、空海が用いた「自利利他」の概念が、他の哲学、宗教にも見出せるということである。そのことを、空海と同時代の最澄をはじめとして、中国や西洋の偉人の著作を引用して論じた本である。
2.評価
1.のように書いたが、「ニッポンスゴイ」と言いたいわけではなく、色々な偉人が似たような結論に達したということが大事で、それだけ普遍性があるということである。自分を愛し、自信をもって、他者を愛するという本書の趣旨に賛成するので、星5つとする。
タイトル通りの本だが(「大切なのは、まず自分を信じること」が結論だから)、空海が用いた「自利利他」の概念が、他の哲学、宗教にも見出せるということである。そのことを、空海と同時代の最澄をはじめとして、中国や西洋の偉人の著作を引用して論じた本である。
2.評価
1.のように書いたが、「ニッポンスゴイ」と言いたいわけではなく、色々な偉人が似たような結論に達したということが大事で、それだけ普遍性があるということである。自分を愛し、自信をもって、他者を愛するという本書の趣旨に賛成するので、星5つとする。
2022年10月2日に日本でレビュー済み
結局、捨身利他行としての趙州禅師の発言記録に続けて、精神分析の概説が記録されているのを見て、この順序で良い、と思いました。そもそも利他より前に、ほんとうに「自分のために」為す行為など、どこにあるのかな、とも考えました。
本書は、それらの偶然の思い付きにも、或る種の答えを付加してくれる、すぐれた問題提起であると思いました。
本書は、それらの偶然の思い付きにも、或る種の答えを付加してくれる、すぐれた問題提起であると思いました。
2022年11月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
「利他」と聞くと、他者を利する、人に良いことをすることだと思う人もいるでしょう。押し付けがましいというニュアンスも込めて、ああ、道徳のお話しなのだ、と感じる人もいるでしょう。
しかし、本書によれば、道徳とは、こういう良いことをしましょう、というお説教のことではありません。
「「道」は、手にふれることはできない、しかし確かに存在する。私たちの人生は、その得体の知れない何かによって支えられ、運ばれている。それが松陰の実感でした」(p.72)
「手にふれることはできない」「道」「得体の知れない何か」は、「超越者」と言い換えることもできるでしょう。
「「道」もまた、私たちにある生き方を求めてくる。それが実現されたのが「道徳」です。道徳的であるとは、「道」にしたがっているということにほかなりません」(同)。
道徳とは年長者が押しつけて来る決まりごとではなく、超越に触れた時に促される生き方、道のことなのです。
本書では、「利他」もそのような前提から語られています。著者の若松さんは、最澄、空海、孔子、孟子、吉田松陰、二宮尊徳、中江藤樹など、いくつもの扉を開けながら、利他を物語ります。それは、著者の博識を示しているというよりは、著者がつねに一本の道――目に見えないもの――を辿っていることの現れでしょう。
「最澄は、「自分を忘れる」ことに「利他」とは何かを考える力点を置きました。空海は、「自他ともに」というところに力点を定めるのです」(p.25)。
自分を忘れて他者を利するべきか、自分をも他者をも利するべきか。若松さんは、いずれにせよ、「自分の存在を抜きにした「利他」」(p.32)はありえないと言います。それは、他者と切り離された自分は存在せず、自分と他者は一体であることに至るのでしょうか。
「菩提心とは・・・すべての「いのち」を救いたいと感じる心である」(p.19)。この「すべて」と「いのち」において、自他は切り離せないのではないでしょうか。
本書でいちばん心に残ったのは「愛語」という言葉です。これは道元の言葉だそうです。
「愛語というのは・・・けっして乱暴な暴力的な言葉を用いないことだ、と道元はいいます。情愛のこもった言葉で呼びかけ、人を傷つけるような言葉遣いをしない」(p.34)。
若松さんはこれをイエスの言葉に結び付けます。
「『ここからあそこへ移れ』と言えば、山は移る。あなた方にできないことは何もない」(フランシスコ会聖書研究所訳)
「怒りの山、恨みの山、不信の山、あるいは悲しみの山。しかし、愛の言葉が、そうした「山」に「ここからあそこへ移れ」というと、その「山」は動いてしまうというのです。もちろん道元は『新約聖書』を知りません。しかし、仏教とキリスト教という異なる宗教がともに、愛の言葉に不可能を可能にするちからを見出していたのは注目に値することです」(p.38)。
たしかに言葉は愛の言葉でなくてはなりません。神の愛に根ざした言葉、神の愛を妨げない言葉が、他者と自分を利するのでありましょう。いや、両者が神の愛を享受するのでしょう。他者が自分の言葉によって侵害されない。それは自分の利でもありましょう。
しかし、本書によれば、道徳とは、こういう良いことをしましょう、というお説教のことではありません。
「「道」は、手にふれることはできない、しかし確かに存在する。私たちの人生は、その得体の知れない何かによって支えられ、運ばれている。それが松陰の実感でした」(p.72)
「手にふれることはできない」「道」「得体の知れない何か」は、「超越者」と言い換えることもできるでしょう。
「「道」もまた、私たちにある生き方を求めてくる。それが実現されたのが「道徳」です。道徳的であるとは、「道」にしたがっているということにほかなりません」(同)。
道徳とは年長者が押しつけて来る決まりごとではなく、超越に触れた時に促される生き方、道のことなのです。
本書では、「利他」もそのような前提から語られています。著者の若松さんは、最澄、空海、孔子、孟子、吉田松陰、二宮尊徳、中江藤樹など、いくつもの扉を開けながら、利他を物語ります。それは、著者の博識を示しているというよりは、著者がつねに一本の道――目に見えないもの――を辿っていることの現れでしょう。
「最澄は、「自分を忘れる」ことに「利他」とは何かを考える力点を置きました。空海は、「自他ともに」というところに力点を定めるのです」(p.25)。
自分を忘れて他者を利するべきか、自分をも他者をも利するべきか。若松さんは、いずれにせよ、「自分の存在を抜きにした「利他」」(p.32)はありえないと言います。それは、他者と切り離された自分は存在せず、自分と他者は一体であることに至るのでしょうか。
「菩提心とは・・・すべての「いのち」を救いたいと感じる心である」(p.19)。この「すべて」と「いのち」において、自他は切り離せないのではないでしょうか。
本書でいちばん心に残ったのは「愛語」という言葉です。これは道元の言葉だそうです。
「愛語というのは・・・けっして乱暴な暴力的な言葉を用いないことだ、と道元はいいます。情愛のこもった言葉で呼びかけ、人を傷つけるような言葉遣いをしない」(p.34)。
若松さんはこれをイエスの言葉に結び付けます。
「『ここからあそこへ移れ』と言えば、山は移る。あなた方にできないことは何もない」(フランシスコ会聖書研究所訳)
「怒りの山、恨みの山、不信の山、あるいは悲しみの山。しかし、愛の言葉が、そうした「山」に「ここからあそこへ移れ」というと、その「山」は動いてしまうというのです。もちろん道元は『新約聖書』を知りません。しかし、仏教とキリスト教という異なる宗教がともに、愛の言葉に不可能を可能にするちからを見出していたのは注目に値することです」(p.38)。
たしかに言葉は愛の言葉でなくてはなりません。神の愛に根ざした言葉、神の愛を妨げない言葉が、他者と自分を利するのでありましょう。いや、両者が神の愛を享受するのでしょう。他者が自分の言葉によって侵害されない。それは自分の利でもありましょう。