普通小説の作家二人が別名義で書いているこのシリーズは、毎回、そうとはとても思えぬほど、娯楽味に溢れている。キワモノすれすれの残酷さ。展開の奇抜さ。登場人物たちの個性の強さ。何もかもが通常のミステリー以上に過激なのは、彼らが普通小説作家だからなのかもしれない。ブレーキのないスポーツカーのようにこのシリーズは、よく走る。
現在スウェーデンで最も売れているクライム作家なんだそうである。これだけページターナー作品が連続するところ見れば、それも当然という気がする。このヨーナ・リンナ刑事のシリーズは8作完結らしいが、『催眠』『契約』『交霊』の最初の三作はハヤカワミステリー文庫にて出版後、現在絶版状態となっている。
シリーズものの翻訳版権は、3作セットで買うことが通例だそうである。4作目からの版権は、売れ行き判断で窺ってゆくらしい。早川書房はこのシリーズは3作だけで売れ行きがきっと芳しくなかったのだろう、NG判断をしたわけである。
次の3作の版権を取った扶桑社が久々に4作目の『砂男』を出したところ、そこそこの手ごたえがあったのだろう。過去のハヤカワ文庫作品も、一気に中古価格が値上がりした次第。翻訳ミステリーには賞味期限があり、またそのタイミングと時代の読みが必要なのだろう。過去3作は日本ニーズが高まり切っていない時期に出され、十分な評価を得られなかったのだろう。ぼくは1作目の『催眠』と4作目の『砂男』と読んでいる。途中の過去作2作を未読のまま、敢えてこのシリーズを進めているが、何だかとても少し悲しい状況である。
さて気を取り直して本書では、シリーズ主人公のヨーナ・リンナは、ますます世捨て人となり、警察を辞めてなお、無資格の一匹狼捜査を続けざるを得ない運命に引きずり込まれてゆく。犯罪者もクレイジーだが、それに輪をかけてクレイジーな男が主役を取る、というところが嬉しい本シリーズである。
本書では、『催眠』の事実上の主人公でもあるエリック・マリア・バルクが、ヨーナとダブル主人公をこなしてゆく。催眠により、ある重要キャラクターの壊れた過去記憶から情報を引き出すという役割、と見えたが、実は彼の本書のストーリーへの関わりは、本人さえ気づけないほど、ずっと深い。その辺りが本書最大の醍醐味なのである。
プロットは凄まじく、サイコ・サスペンスとアクションとミステリー、いやスプラッタやホラーもかな? ともかく多面的なエンターテインメントに徹しており、終盤のどんでん返しや、カタストロフに近いクライマックスは、前作を凌ぐかに見える。
エリックの盲目のピアノ教師ジャッキーとその華憐な娘アデレーンが、本書のヒューマンで心に響く部分を請け負うが、彼女らを守る立場に追いつめられるエリックの行動も、ヨーナともどもダイナミックこの上ない。北欧ミステリーならではの面白さをしっかり継承している本シリーズ、やはり過去作の再販が望まれる。さあ、どうでしょう、ハヤカワさん!
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つけ狙う者(下) (海外文庫) 文庫 – 2020/12/25
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40言語に翻訳された国際的ベストセラー!
長い悪夢の果て 病的執着の末路!
過去の事件と複雑に絡み合い、邪悪な〈正体〉が炙り出される!
マルゴットからの依頼を受け、事件の第一発見者に催眠聴取を行った精神科医のエリ ック・バルクは、遺体が奇妙な姿勢を取らされていたことを知る。エリックの脳裏に 浮かんだのは、共通点のある9年前の事件だった。容疑者の牧師ロッキー・クルケル ンドは、エリックの精神鑑定により医療刑務所の精神病棟に送致されたが、本人はア リバイを主張していた。もしあの事件に真犯人がいて、今も凶行を繰り返していたと したら……先読み不能の展開が待つ北欧ミステリー待望の最新刊。(解説・杉江松恋)
長い悪夢の果て 病的執着の末路!
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- 本の長さ431ページ
- 言語日本語
- 出版社扶桑社
- 発売日2020/12/25
- 寸法10.6 x 1.6 x 15.2 cm
- ISBN-104594086918
- ISBN-13978-4594086916
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著者について
Lars Kepler(ラーシュ・ケプレル)
アレクサンドラ・コエーリョ・アンドリルとアレクサンデル・アンドリルの作家夫婦が共作するときのペンネーム。国際的なベストセラーとなったヨーナ・リンナシリーズは、40以上の言語に翻訳され、1千万部以上も売れている。アンドリル夫妻は、ラーシュ・ケプレルのペンネームで執筆する以前も、それぞれが単独で書いた作品が出版され高い評価を受けている。3人の娘とスウェーデンのストックホルムに在住。
染田屋茂 (そめたや・しげる)
編集者・翻訳者。主な訳書に『真夜中のデッド・リミット』『極大射程』(ともに扶桑社)、『「移動」の未来』(日経BP)など。
下倉亮一 (したくら・りょういち)
スウェーデン語翻訳者。共訳書に『スティーグ・ラーソン最後の事件』(ハーパーコリンズ・ジャパン)がある。
アレクサンドラ・コエーリョ・アンドリルとアレクサンデル・アンドリルの作家夫婦が共作するときのペンネーム。国際的なベストセラーとなったヨーナ・リンナシリーズは、40以上の言語に翻訳され、1千万部以上も売れている。アンドリル夫妻は、ラーシュ・ケプレルのペンネームで執筆する以前も、それぞれが単独で書いた作品が出版され高い評価を受けている。3人の娘とスウェーデンのストックホルムに在住。
染田屋茂 (そめたや・しげる)
編集者・翻訳者。主な訳書に『真夜中のデッド・リミット』『極大射程』(ともに扶桑社)、『「移動」の未来』(日経BP)など。
下倉亮一 (したくら・りょういち)
スウェーデン語翻訳者。共訳書に『スティーグ・ラーソン最後の事件』(ハーパーコリンズ・ジャパン)がある。
登録情報
- 出版社 : 扶桑社 (2020/12/25)
- 発売日 : 2020/12/25
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 431ページ
- ISBN-10 : 4594086918
- ISBN-13 : 978-4594086916
- 寸法 : 10.6 x 1.6 x 15.2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 406,518位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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